大判例

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東京地方裁判所 昭和26年(ノ)120号 決定

原告 中島忠雄

被告 大江きみ (いずれも仮名)

一、主  文

一、被告は原告に対し東京都江戸川区小岩町三丁目千五百八十五番地所在木造トタン葺平家建住宅一戸建一棟のうち、六疊一室を二室に仕切つた西側三疊の部分および勝手、廊下ならびに便所(この建坪合計三坪七合五勺)を昭和二十六年十月三十一日限り明渡すこと。

二、原告は、被告に対し、右明渡と同時に、立退料として、金五千円を交付すること。

三、原告は、被告に対し右明渡に至るまでの賃料に相当する金員は一切抛棄すること。

四、訴訟並びに調停費用は各自弁とする。

二、理  由

原告は、被告は原告に対し、東京都江戸川区小岩町三丁目千五百八十五番地所在木造トタン葺平家建住宅一戸建一棟のうち、六疊一室を二室に仕切つた西側の三疊および勝手、廊下ならびに便所(この建坪合計三坪七合五勺)より退去し、右家屋を明渡し、且つ昭和二十三年七月以降明渡に至るまで、一ケ月金七十五円の割合による金員を支払うべし、訴訟費用は被告の負担とするとの判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十二年三月一日其の所有に係る請求の趣旨記載の家屋中六疊一室及び勝手の内一坪の部分を被告の夫大江太郎に対し賃料一ケ月金三十円毎月末日払期間三ケ年(昭和二十五年二月二十八日迄)と定めて賃貸し、其の後昭和二十三年四月分より賃料を一ケ月金七十五円に値上したところ昭和二十四年五月十三日右太郎死亡に因り其の遺族に於て本件賃貸借関係をも承継するに至つたが、賃料は太郎存命中より滞り勝ちにて何等誠意の認むべきものがないので期間満了を待つて明渡を求めたが応じないため、原告は止むを得ず前記六疊を半分に仕切つて其の一を自己の使用に供して来た。以上のような次第で被告は前記賃貸借契約が終了した昭和二十五年三月一日以降原告に対抗し得べき何等正当の権原なくして請求の趣旨記載の本件家屋の部分を不法に占有しているのみならず、昭和二十三年七月以降賃料の支払を怠つているので同月より昭和二十五年二月分迄の一ケ月金七十五円の割合による賃料及び同年三月以降明渡に至るまでの損害金として同割合に依る金員の支払を求めると述べた。

被告は右主張に対し、被告の亡夫太郎が昭和二十二年三月一日原告より其の所有に係る本件家屋の内原告主張の部分を其の主張の如き約で賃借し、其の主張の如き賃料の値上げあつたところ昭和二十四年五月十三日太郎死亡に因り被告等遺族に於て其の賃貸借関係を承継し、現に被告が請求の趣旨記載の部分を占有していることは之を認めるが、其の余の事実は否認する。原告は最初契約した期限の満了に先立ち昭和二十五年二月二十七日被告に対し当時延滞になつていた昭和二十三年十一月分以降の賃料を免除する上期間満了後は六疊の間を二室に仕切り、其の西側三疊の部分を改めて期間の定めなく賃料一ケ月金百五十円毎月末日払の約で賃貸することを約したので、被告は右約旨により正当な賃借権に基いて之を占有しているもので現に原告は昭和二十五年三月十五日頃同月分の賃料金百五十円を異議なく受領したものであると答弁した。

<立証省略>

当裁判所は後記の如き本件の特異性に鑑み、事件を民事特別調停に付し事案に適切な解決案を求めたところ当事者双方は被告の明渡を前提とする解決案に同意しながら細目の条件について妥結するに至らず右調停は結局不調に帰するに至つた。

仍て按ずるに、原被告各本人訊問の結果を綜合すれば、原告は昭和二十二年三月一日其の所有に係る請求の趣旨記載の家屋中六疊一室及び勝手の内一坪の部分を被告の夫大江太郎に対し期間を昭和二十五年二月二十八日迄三ケ年間と定めて賃貸し、昭和二十四年五月十三日右太郎死亡に因り其の遺族に於て該賃貸借関係を承継したところ右太郎死亡後原被告間に情交関係を生じ其の間子供を儲けるに及んで原告家庭内に紛議をかもし結局其の子供は原告に於て之を認知し引取ることにしたが被告をめぐる感情のもつれは容易に融けることなく、このことは被告が生活に余裕なく賃料も滞り勝であることも手伝つて益々紛争に拍車をかける結果となり今日に於ては到底同一家屋に円満な共同生活を営むことが不可能な状態に立到つていることが認められ被告としても適当な条件さえ満されたら本件家屋占有部分より立退く意思であること、調停の経過に徴し明かなところであるから本件は訴訟上の判断は別とし、適当な条件を以て被告を本件家屋より立退かしめることを以て最も妥当な紛争解決の方途と考えざるを得ない。

而して之が適当なる条件については証人山口タケの証言及び被告本人訊問の結果により明かな如く被告が幼児を抱えながら工員として働き僅かの收入あるに過ぎないため現に生活保護法により生活扶助金の給付を得て辛うじて生活している事実並びに近所に住む実母山口タケ方は四疊半一室にハルと子供三人が雑居している状態で此処に被告母子を引取る余裕絶無なる事実と住宅の極度に払底している現下の社会状勢、本件紛争の経過其の他原被告双方に存する諸般の事情を綜合すれば、被告に対し相当の猶予期間を与えて之が明渡を求める代り明渡に至るまでの従来の賃料に相当する金員は一切抛棄し、且つ立退料として若干の金員を交付せしめるのが相当であると考えられるので、右条件につき更に諸般の事情を綜合して主文の如く決定した次第である。

(裁判官 石川秀敏)

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